妊孕性温存を希望する患者さんにとって卵巣摘出・凍結は一生に1回限りのやり直しの効かない治療であり、且つ移植後数年経過して初めて評価される手技です。その責任も含めて、私たちは慎重に、全力で対応して参りたいと考えています。

また、2020年12月にHOPEは新たに地盤堅固な高台に移転いたしました。HOPEの特徴と合わせてご紹介いたします。

HOPEを移転した理由

多くの卵巣凍結をはじめとした妊孕性温存を実施する中で、顕在化してきた課題は「長期保管」です。妊孕性温存を希望する患者さま、特に卵巣凍結においては、近年小児がん患者さまへの適応も拡大してきており、5年どころか10年、20年の長期保管が前提条件となります。

近年、多発している大雨、台風、洪水などの自然災害や東日本大震災のような震災の発生を考慮し、より地盤が堅固であり高台に位置する場所へHOPEを移転いたしました。

HOPE 5つの特徴

遠隔診療

遠隔診療を随所に取り入れることで、患者さんにとって負担の少ない治療を実現します。

  • 診察前の相談員による情報提供
  • 遠隔地にお住まいの患者さんへの診察
  • がん・生殖医療専門心理士によるカウンセリング
  • 凍結保存後のフォローアップや凍結更新手続き

などに活用し、短期間での実施が求められる妊孕性温存がよりスムーズにいくよう努めています。

搬送ネットワーク

卵巣摘出後、4℃の条件を保つことで、24時間以内に搬送することができれば、卵巣組織への影響はないと考えられています。

摘出医療機関との連携を密にすることで、患者様ごとにベストな搬送ができるように調整しています。

緩慢凍結法

卵巣凍結後、融解移植を行い妊娠出産した患者さんの90%以上は緩慢凍結法によるものです。

実際に当院の研究では、ガラス化凍結法で凍結する場合には、濃度の高い保護材を使用することになり、

融解した際には長時間、高濃度の凍結保護材が残っていることを確認しました。

こうした観点からも当院では緩慢凍結法を採用しています。

質の高い手技や卵胞密度/MRDの評価

 

卵巣凍結には組織処理など特別な技術が求められます。また、摘出した卵巣組織の評価のために、密度の測定も必要である他、卵巣組織の中に悪性細胞が転移していたりしないかを確認する必要もあります。

そのため、熟練の技術者と専門的な最新機器をそろえています。

融解卵巣組織移植までの丁寧なサポート

原疾患治療中のサポートをはじめ、移植実施に当たっては、がん治療施設だけでなく、移植担当施設とも密に連携し、最適な移植方法を提案いたします。

 

❝The woman stays, the tissue moves.❞

これは、卵巣凍結の大家である、DenmarkのCY Andersenが提唱したDanishモデルと呼ばれる考え方です。

当院では、患者様にとってできるだけ身体的な負担なく、がん治療を優先しながらも十分な妊孕性温存を実現するということだと理解しています。

これからも研鑽を重ね、患者中心の医療を実現できるように努めて参ります。